大阪地方裁判所 昭和55年(行ウ)122号 判決 1983年12月27日
大阪市鶴見区茨田横堤町二丁目六番一九号
原告
宮田彰
右訴訟代理人弁護士
須田政勝
同
石川元也
同
河村武信
同
寺沢勝子
同
西本徹
同
谷田豊一
大阪市城東区中央二丁目一三番二三号
被告
城東税務署長
本郷純夫
右指定代理人
田中治
同
友滝英治
同
藤原和彦
同
松本捷一
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が、昭和五四年三月五日付でした原告の昭和五〇、五一、五二年分の各所得税についての更正処分並びに過少申告加算税の各賦課決定処分(但し、昭和五二年分については別表(一)の(6)の裁決欄記載の金額を超える部分を除く)を取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、めん類製造卸売業を営む者であるが、昭和五〇、五一、五二年分各所税について、白色申告により、それぞれ総所得金額を別表(一)の(1)(2)の欄記載のとおりとする確定申告をしたところ、被告は昭和五四年三月五日付で、右各申告につき同表(3)(4)欄記載のとおりとする更正処分(以下本件更正処分という)及び同表(5)の欄記載のとおりの過少申告加算税の賦課決定処分をした。原告はこれを不服として、昭和五四年四月二四日、被告に対し異議申立をしたが棄却されたので、昭和五四年八月三一日国税不服審判所長に対し審査請求したところ、同所長は昭和五五年九月二日付で、昭和五二年分の更正処分を別表(一)の(6)に記載の通り一部取消したほかは、すべて審査請求を棄却した。
2 しかし、原告の昭和五〇、五一、五二年分(以下本件係争各年分という)の総所得金額は、いずれも確定申告のとおりであるから、本件更正処分は原告の所得を過大に認定した違法がある。
3 よって、原告は、本件各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分の取消を求める。
二 請求原因に対する答弁
請求原因1は認め、同2は争う。
三 被告の主張
1 原貴の本件係争各年分の総所得金額及びその明細は別表(二)A欄記載のとおりであるから、2の範囲内でなされた本件更正処分に違法はない。
2 推計の必要性
被告は、本件係争各年分の所得税の調査に際して、実額による正確な所得金額を計算しようと努め、部下職員を昭和五三年九月六日から同年一〇月三〇日までの間に、六回にわたり原告の営業所へ臨場させた。臨場した部下職員は、原告と面接(但し、六回のうち二回は原告の母と面接)し、原告に対して所得金額の計算に必要な帳簿書類等の提示を求めたが、原告はこれに応ぜず、調査に協力しなかった。そこで、被告は、やむを得ず原告の取引先等を反面調査し、その結果得た資料に基づき、原告の本件係争各年分の事業所得金額を、左記のとおり推計により算出した。
3 推計々算による原告の事業所得金額
(一) 類似同業者二名の平均原価率による推計(主位的主張)
(1) 売上原価(期首及び期末たな卸高に大差がないと認められるので、仕入金額をもってその金額とした)
(イ) 原告が実名で仕入れた分について
原告は、本件係争年にいずれも、大阪府製麺商工業協同組合、株式会社粉善商店、信濃屋そば製粉株式会社の三者より原料小麦粉を仕入れ、その仕入額合計は、昭和五〇年は三一〇万八、五五〇円、昭和五一年は三四九万一、一一五円、昭和五二年は三一九万〇、二五〇円(但し、昭和五〇年、同五一年にはこのうち小麦粉のまま他に売却した原料直販分が三万二、四〇〇円含まれている)である。
(ロ) 原告が匿名で仕入れた分について
右(イ)のほか、原告は株式会社粉善商店から、いわゆる上様名義による匿名によって、昭和五〇年には六七万五、四〇〇円を、昭和五一年には八二万九、九〇〇円を、昭和五二年には五五万八、四〇〇円を、それぞれ仕入れた。
(ハ) 右(イ)、(ロ)の合計による原告の本件係争各年分売上原価は別表(二)A売上原価欄記載のとおりである。
(2) 売上金額
右(1)の売上原価(ただし、前記原料直販分を除く)を後記原告の同業者二名の昭和五〇年ないし同五二年の各平均原価率(売上金額中に売上原価の占める割合)二九・一四パーセント、二九・二〇パーセント、二九・九三パーセントで除した金額(昭和五〇年、同五一年についてはこれに小麦粉のまま販売された三万六、〇〇〇円宛加えたもの)が、原告の本件係争各年分売上金額であり、別表(二)A第一次主張欄記載のとおりである。
(3) 一般経費
別表(二)A一般経費欄記載のとおりである。
(4) 雇人数
原告は、係争各年の業務繁忙期に臨時アルバイトを雇傭して賃金を支払ったところ、その額は、別表(二)A雇人費欄記のとおりである。
(5) 事業所得金額
別表(二)A第一次主張欄(<1>-<2>-<3>-<4>)記載のとおりである。
(6) 同業者二名の平均原価率
同業者二名のうち、一名は城東税務署管内及び他の一名は隣接する旭税務署管内において、いずれも原告と同様に本件係争各年を通じて、もっぱらめん類製造卸売業を営む個人企業の事業者であり、その事業規模及び事業内容の細部についても原告と類似している。すなわち、本件係争各年における売上原価は、原告が三七八万円余ないし四三二万円余であるのに対し、同業者Aは五四五万円余、同業者Bは一八八万円余ないし二四八万円余であり、さらに製造しているうどん一玉あたりの重量も、原告が三〇〇グラムであるのに対し、同業者Aは二七〇グラム、同業者Bは三〇〇グラムである。類似同業者A及びBの原価率並びに右両名の平均原価率の計算内容は別表(二)記載のとおりである。
(二) 売価還元率による推計(予備的主張)
これは、仕入単価と売上単価の比率から売上金額を推計するものであるから、原告の仕入単価と売上単価が問題となる。
(1) 仕入単価(小麦粉一袋二五キログラム)
原告が仕入れていた小麦粉の銘柄は「アザラシ」と「花椿」の二種類があるが、原告に有利な仕入単価の高い「アザラシ」の仕入単価の推移は次のとおりであ。
年分 仕入単価
昭和五〇年
一月から六月まで 二、一一〇円
七月から一二月まで 二、一一〇円
昭和五一年
一月から二月まで 二、一一〇円
三月から八月まで 二、五四〇円
九月から一二月まで 二、八六〇円
昭和五二年 二、八六〇円
(2) 売上単価(小麦粉一袋あたりの売上単価)
(ア) 小麦粉一袋(二五キログラム)からのうどん玉生産可能数は二七〇玉である。
(イ) うどん一玉の売上単価
昭和五〇年一月から六月までのうどん一玉の売上単価は三一円である。
昭和五〇年七月から同五二年一二月までは、一部判明しているものと判明しないものがあるので、判明しないものは原告主張の一玉三四円として、原告の得意先に対する売上単価及び売上数の割合から平均売上単価を算出すると三五・三四円となる(その詳細は別表四記載のとおり)。
(ウ) 右(ア)、(イ)より、小麦粉一袋あたりの売上単価は、
昭和五〇年一月から六月まで
270玉×31円=8,370円
昭和五〇年七月から同五二年一二月まで
270玉×35.34=9,541円
(3) そうすると、仕入単価と売上単価の比率(売価還元率)は、左記のようになる。
年分 仕入単価 一袋あたり売上単価 仕入・売上比率
昭和五〇年
一月から 六月まで 二、一一〇円 八、三七〇円 一対三・九六
七月から一二月まで 二、一一〇円 九、五四一円 一対四・五二
昭和五一年
一月から 二月まで 二、一一〇円 九、五四一円 一対四・五二
三月から 八月まで 二、五四〇円 九、五四一円 一対三・七五
九月から一二月まで 二、八六〇円 九、五四一円 一対三・三三
昭和五二年分 二、八六〇円 九、五四一円 一対三・三三
(4) 右仕入・売上比率を前提に売上金額を計算すれば、左記のようになる(明細は別表(五)記載のとおり)。
昭和五〇年 一、五九四万二、五七二円
昭和五一年 一、六〇六万八、二七一円
昭和五二年 一、二四八万三、〇〇四円
(5) 事業所得金額
別表(二)A予備的主張欄(<1>-<2>-<3>-<4>)記載のとおりである。
四 被告の主張に対する原告の答弁並びに反論
1 被告の主張1のうち昭和五〇年分ないし五二年分の一般経費が被告の主張の通りであることは認めるが、その余は争う。
2 被告の主張2(推計の必要性)のうち、原告が事業に関する帳簿書類を呈示しなかったことは認めるが、原告のような白色申告者には法定の記帳義務はないのであるから、帳簿が存在しないことをもって直ちに推計をなすことは不当である。
3(一) 被告の主張3(一)(同業者二名の平均原価率による推計)について
(1) 売上原価について
(イ) 原告が実名で仕入れた分について
昭和五一年及び同五二年分のうち原告が実名で仕入れた額が被告主張の通りの額であることは認めるが、昭和五〇年分については争う。なお、原告が小麦粉のまま他に転売した額は、昭和五〇年は一八万円、同五〇年は三五万円である。
(ロ) 原告が匿名で仕入れた分について
原告は、株式会社粉善商店から上様名義による匿名仕入れをしたことはあるが、これは僅少額であり、被告主張額ほど多額の仕入れはしていない。
(ハ) したがって、被告の別表(二)A売上原価欄記載金額はすべて争う。
(2) 売上金額について
争う。とくに、平均原価率といっても、それはわずかに二名の同業者のそれを、しかも作為的にとったもので、到底客観性も合理性もない。
(3) 一般経費について
認める。
(4) 雇人費について
原告が、業務繁忙期にアルバイトを雇傭し、その給料として被告主張の通り、昭和五〇年、同五一年各八四万円、昭和五二年八六万四、〇〇〇円を支払ったことは認めるが、原告はその他にも、常時、親族ではあるが原告と生計を別にする宮田守夫、同すゑ子を雇傭し、守夫に対し年額九六万円、すゑ子に対し年額四〇万円を支払っていた。したがって、雇人費は、別表(二)のB欄に記載の通りである。
なお、原告方と、守夫、すゑ子を含む父方家族とは、全く別棟の住宅に寝起きをしており、いわゆる世帯も全く別であって、両者はいわゆる生計を一にする世帯ではない。国民健康保険も、便宜上同一世帯にしておくのが有利であるからそうしたに過ぎないし、ガス代等の支払預金も預金名義が原告名になっているに過ぎないから、このことをもって、原告と守夫、すゑ子が同一家族であるということはできない。
(5) 事業所得金額について
争う。
(6) 同業者二名の選定について
被告の主張する同業者二名は、いずれも住所、氏名が明らかでないうえ、その事業規模、従業員数、販売先と仕入価額等が一切不明で、その抽出された同業者数もわずかに二名と少なく、到底普遍性と合理性を有するものではない。さらに、その抽出方法も、その過程が明らかでなく、被告の思惑ないし恣意により、とくに利益率のよい同業者がビックアップされた可能性もないとはいえない。
したがって、被告主張の同業者比率に基づく推計は違法である。
(二) 被告の主張3(二)(売価還元率による推計)について
(1) 仕入単価(小麦粉一袋二五キログラム)について
否認する。仕入単価の推移は、昭和五〇年は二、七〇〇円、同五一年は二、七〇〇円(但し、三月一日より三、〇〇〇円である。
(2) 売上単価について
(ア) 小麦粉一袋からのうどん玉の生産可能数は、実際には約二三〇個である(しかし、原告は異議申立、審査請求の段階で、生産可能数は二七〇玉と主張してきたので、売価還元法による原告の売上高算定においては、二七〇玉として計算する。)。
(イ) 昭和五〇年一月から六月までは、被告主張どおり、うどん一玉の単価は三一円である。しかし、同年七月以降、昭和五一年、同五二年にかけての一玉の単価は平均三四円であった。
(ウ) 右(ア)、(イ)より、小麦粉一袋あたりの売上単価は、
昭和五〇年一月から六月まで
270玉×31円=8,370円
昭和五〇年七月から同五二年一二月まで
270玉×34円=9,180円
(3) そうすると、仕入単価と売上単価の比率(売価還元率は)は、
昭和五〇年 一対三・一〇
昭和五一年 一対三・四〇
昭和五二年 一対三・〇六
となる。
(4) 右仕入・売上比率を前提に、売上金額を計算すれば、左記のようになる(明細は別表(六)記載のとおり)。
なお、原告は、製めんの原料として仕入れた小麦粉のうち、昭和五〇年度は一八万円相当のものを、また、同五一年度は三五万円相当のものを、それぞれ加工をすることなく、そのまま他に売却したし、さらに、原告方には、昭和五〇年から同五二年にかけて冷蔵庫の設備がなく、追加注文に備えて多目に作ったうどん玉は翌日売却できないため、商品全体の約二パーセント毎日廃棄していたので、これらを計算に加えた。
昭和五〇年 九五九万五、四二七円
昭和五一年 九九七万一、三〇八円
昭和五二年 九五六万六、九二二円
(5) 事業所得金額
別表(二)B欄(原告主張額)(<1>-<2>-<3>-<4>)
記載のとおりである。
4 後記被告の再反論2ないし4は争う。
五 原告の反論(雇人費について)に対する被告の再反論
1 右原告の反論は争う。
2 原告は、賃金台帳等の帳簿を全くつけておらず、原告が宮田守夫、同すゑ子に給料を支払っていたことを裏付けるべき資料は何もない。仮に、原告が右両名に主張額にかかる給料を支払っていたとしても、右両名は原告と生活を一にする親族であるから、必要経費として算入することはできない(所得税法五六条参照)。
そして、右のことは、以下の諸事実、すなわち、(一) 右両名に対し、所得税の源泉徴収がなされていないこと、(二) 右両名が給料収入として所得税の確定申告及び住民税の申告をしていないこと、(三) 右両名は、原告方と同一地番の敷地内に居住していること、(四) 住民基本台帳及び国民健康保険においては、原告が世帯主で、右両名は原告の世帯員となっていること、(五) 原告の父(宮田守夫の父ですゑ子の夫)方のガス及び電話の使用料金の支払いが原告の預金口座からなされていること、(六) 原告の収入金の一部が宮田すゑ子の預金に入金されていること、(七) 原告は、本件係争各年分の所得税の確定申告において、父方と原告方の社会保険料、及び、保険契約者が父方である宮田為吉、宮田守夫にかかる損害保険料について、その控除の申告をしていること、(八) 原告は、その居住する町会へ、原告方及び父方の計六名を一世帯として届出をしており、町会費も、一世帯分の一〇〇円のみを支払っていること、以上の諸事実からも明らかというべきである。
3 なお、原告と右両名とが生計を一にする親族であるとすると、事業専従者控除(所得税法五七条三項)の適用の可否が問題となるが、同控除が適用される要件としては確定申告書に同法同北三項の適用を受ける旨及び同条項の規定により必要経費とみなされる金額に関する事項の記載が要求されている(同条五項)ところ、原告は右記載をしていない。したがって、必要経費に算入することはできず、扶養控除の対象となるに過ぎない。
4 原告がその主張の如く約二パーセントの商品を廃棄していたことはない。このことは、次のことからも明らかである。
(一) 原告方では、過去の経験あるいは原告の販売、集金の形態から、一日の販売予定数は前日に判明していた筈であるから、原告としてはそれに見合う数量を製造すれば足りるのであって、余分の数量の商品を製造する必要はなかった。
(二) 昭和五〇年ないし五二年当時は、商品の防腐剤として過酸化水素の使用が認められており、原告もこれを使用していたので、商品の日持ちはよかった。
(三) 被告の調査の際、原告は、「残った商品は、自分の店頭において販売している。」と申立てた。
(四) たまたま商品が残っても、自家消費等に消費する程度のものであった。
以上の事実からすれば、原告が仮に冷凍設備を備えていなかったとしても、原告主張のような数量の商品廃棄損耗分があったとは到底いい難い。
第三証拠
本件記録中の証拠関係目録記載のとおり。
理由
一 請求原因1の事実(原告の営業と本件更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分並びに裁決の存在等)は当事者間に争いがない。
二 推計について
原告が、本件係争各年分の所得税の調査に際し、その事業に関する帳簿書類等を提示しなかったことは当事者間に争いがなく、証人黒川曻の証言及び弁論の全趣旨によれば、被告において、原告の本件係争各年分に関する事業所得金額を実額により把握することは困難であったところから、推計により、右原告の所得を算定したことが認められるので、被告が推計によって原告の所得を算定したこと自体に違法はないというべきである。
一 そこで、本件各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分が適法であるか否かについて判断する。
1 売上原価について
(一) 原告が実名で仕入れた分について
原告の昭和五一年分売上原価(原料である小麦粉の仕入額)が三四九万一、一一五円、昭和五二分のそれが三一九万〇、二五〇円であることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第五ないし第七号証によれば、原告の昭和五〇年分売上原価は三一〇万八、五五〇円であることが認められる。
(二) 原告が匿名で仕入れた分について
成立に争いのない乙第二〇号証の一、三、四、六、八、一一、一三、一四、一六、一八、一九、二一、二三、二四、二五、二七、二九、三一、三三、三五、三六、三七、三九、四一、四三、四五、四七、四八、五〇、五二、五四、五六、五八、六〇、六二、六四、六六、六七、同第二一号証、証人黒川曻の証言と弁論の全趣旨により成立を認める乙第一九号証の一、二、同第二〇号証の二、五、七、九、一〇、一二、一五、一七、二〇、二二、二六、二八、三〇、三二、三四、三八、四〇、四二、四四、四六、四九、五一、五三、五五、五七、五九、六一、六三、六五、六八、証人黒川曻の証言、原告本人尋問の結果(但し、後記信用しない部分を除く)、並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。すなわち、
(1) 訴外株式会社粉善商店(以下単に粉善商店という)は、小麦粉の卸売業を営んでいるところ、その営業形態は、店頭に商品を置いてこれを販売しているわけではなく、各得意先から電話等で小麦粉の買受け注文を受けた場合に、メーカー等に対し同一数量の小麦粉の購入注文をし、かつ、右注文にかかる小麦粉は、直接メーカー等から各得意先に配達して納品する方法によって営業をしていたものであって、いわゆる店頭販売はほとんどしていなかった。
(2) 原告は、めん類の製造原料である小麦粉を、右粉善商店外二名から仕入れていたところ、右粉善商店に備付けの帳簿(乙第一九号証の一、二)の記載によれば、粉善商店が原告に対し、原告名義で販売した数量に上様名義の販売数量を加えた販売量が、粉善商店においてその直前に仕入れた小麦粉の数量と一致し、また、右上様名義の取引のほとんどが、原告名義の取引がなされた数日後になされたようになっている。
(3) 次に、原告に対し原告名義で販売した商品名及び単価が一、二の例外を除き、いずれも上様名義で販売した商品名及び単価と同一であり、また上様名義の取引にかかる取引数量は、一回当りいずれも終始アザラシ二〇袋、紫グルタ一〇袋と一定しており、昭和五〇年及び五一年度の仕入合計数量は、アザラシ二二〇袋、紫グルタ一一〇袋と同数になっている(別表(七)ないし(一〇)参照)。
(4) 粉善商店が原告に対し、原告名義で小麦粉を販売した日と、上様名義で販売した物品受領書の日付が同一であり、また、右原告名義の取引にかかる物品受領書(原告名義のもの)の番号と上様名義の取引にかかる物品受領書(粉善名義のもの)の番号とが、ほぼ連続している(別表(一二)の物品受領書欄及び乙第二〇号証の一ないゑ六八参照)。
(5) 原告自身、その本人尋問において、粉善商店から匿名で小麦粉を仕入れたことを認める供述をしている(但し、その数量の点は除く)。
以上の事実が認められる。そして、右事実に、冒頭掲記の各証拠を総合して考えると、原告は、粉善商店から、実名による仕入れ以外に、別紙(七)ないし(一二)に記載の通り、昭和五〇年に六七万五、四〇〇円、昭和五一年に八二万九、九〇〇円、昭和五二年に五五万八、四〇〇円相当の小麦粉を、いわゆる上様名義により匿名で仕入れをしたと認めるのが相当であって、右認定に反する原告本人尋問の結果はたやすく信用できず、他に右認定を履すに足りる証拠はない。
(三) そうすると、原告の本件係争各年分の売上原価は、右(一)、(二)の合計であって、別表(二)A売上原価欄記載のとおりであるというべきである。
2 売上金額について
(一) 成立に争いのない乙第八号証、同第一一ないし一四号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第九、一〇号証、証人河口進の証言、並びに、弁論の全趣旨によれば、大阪国税局長は昭和五六年五月頃、城東、旭、東成、東、東大阪、門真各税務署長に対し、その管内に事業所を有し、年間を通じて継続してめん類製造卸売業を営む個人の青色申告者で、売上原価が一五〇万円以上七〇〇万以下であり、他の業種目を兼業しておらず、不服申立て又は訴訟係属中でない者全員の昭和五〇年ないし同五二年の売上金額、売上原価、一般経費について報告するように通達したこと、被告及び旭税務署長が右通達により調査した結果、右抽出基準に該当する同業者は城東税務署管内に一名、旭税務署管内に三名合計四名あり(その余の税務署管内には該当者は存在しなかった)、青色申告決算書記載の売上金額、売上原価、一般経費を記載して作成した同業者調査表を提出報告したこと、右調査表から被告はさらに、販売販売するうどん玉一個の重量が二七〇グラムないし三〇〇グラムと原告の販売するそれの重量である三〇〇グラムとほぼ類似する城東区及び都島区(旭税務署管内)所在の二名を抽出したこと、これら二名の売上金額、売上原価、一般経費及び原価率は別表(二)A、B欄記載のとおりであることが認められ、その平均原価率が昭和五〇年は二九・一四パーセント、昭和五一年は二九・二〇パーセント、昭和五二年は二九・九三パーセントであることは計算上明らかである。
右認定の事実によれば、右平均原価率の算出基礎となった同業者は、原告の事業所に隣接する大阪市東部の区内に事業所を有するめん類製造卸売業を営む個人業者で、かつ売上原価が原告のそれと比較的類似している(原告のそれの二倍以内でかつ二分の一以上の範囲内にある)ものであるから、その抽出基準には合理性があり、その抽出過程に恣意の介在する余地もなく、また同業者の原価率についても極端に低率又は高率を示す者は選出されておらず、さらに販売するうどん玉一個の重量は通常原価率に影響するところが大と考えられるところ、抽出された二名の同業者のそれは原告のそれとほぼ類似していることなどから、このようにして算出された平均原価率については、一応の合理性と客観性が担保されているということができる。
(二) 次に、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第五号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告方では、昭和五〇年及び同五一年において、製めんの原料として仕入れた小麦粉のうち、これを加工せず、そのまま他に転売したものも若干あることが認められるところ、原告は、右小麦粉のまま他に転売したものは、昭和五〇年は一八万円であり、同五一年は三五万円であると主張するが、右原告の主張事実に副う原告本人尋問の結果により成立を認めうる甲第五号証の記載内容及び原告本人尋問の結果はたやすく信用できず、他に右原告の主張事実を認めうる的確な証拠はないから、結局、原告が仕入れた小麦粉のうちで、これを加工せず小麦粉のままで他に転売した額は、昭和五〇年及び五一年とも、本訴において被告の認める各三万二、四〇〇円(但し、仕入原価)を超えないものというべく、また、右転売した小麦粉の転売価格は、同じく被告の認める合計各三万六、〇〇〇円を超えないものというの外はない。
(三) そうすると、原告の係争各年分の売上金額は、昭和五〇年及び同五一年については、前記1の(三)で認定した各売上原価から前記三万二、四〇〇円を差し引いた額を、また、昭和五二年については同じく前記売上原価を、それぞれ前示各平均原価率で除した金額(但し、昭和五〇年及び同五一年はこれに各三万六、〇〇〇円を加えた額)、すなわち別表(二)A第一次主張欄記載のとおりとなることが計算上明らかである。
昭和50年 (3,783,950円-32,400円)÷0.2914+36,000円=12,910,227円
昭和51年 (4,321,015円-32,400円)÷0.2920+36,000円=14,723,037円
昭和52年 4,784,650円÷0.2993=12,524,724円
3 一般経費について
本件係争各年分の原告の一般経費が、別表(二)A欄記載のとおりであることは当事者間に争いがない。
4 雇人費について
原告が係争各年の業務繁忙期に臨時雇をアルバイトとして雇用し、昭和五〇年、五一年に各八四万円、同五二年に八六万四、〇〇〇円の各給料を支払ったことは当事者間に争いがない。
原告は、右以外に、生計を別にする親族である宮田守夫(実弟)と宮田すゑ子(実母)両名を原告の事業に常時従事する従業員として雇い、係争各年に前者に各九六万円、後者に各四〇万円の給料を支払った旨主張しているところ、原告本人尋問の結果によれば、右守夫及びすゑ子は、原告の製めん業を手伝っていたことが一応認められ、また、原告本人尋問の結果中には、原告は、昭和五〇年ないし五二年頃、右守夫及びすゑ子に給料を支払っていた旨の原告の主張事実に副う供述がある。
しかしながら他方、成立に争いのない乙第二ないし第四号証、同第二二ないし第二七号証、同第二八、二九号証の各一ないし、三、同第三〇号証、弁論の全趣旨により成立を認めうる乙第四一号証、証人黒川曻の証言、原告本人尋問の結果(但し、後記信用しない部分は除く)、並びに、弁論の全趣旨を総合すると、(1) 原告が守夫及びすゑ子に対して支払ったと主張する給料について、源泉徴収がなされたことはないし、また、守夫及びすゑ子が右給料を受けとったことを前提とする所得税の確定申告及び住民税の申告をしたことはないこと、(2) 守夫及びすゑ子は、原告の父為吉と共に、昭和五〇年ないし五二年当時、原告の居住する地番と同一地番の敷地内に居住しており、その住民基本台帳には、原告が世帯主となっていて、守夫及びすゑ子は、原告の世帯員となっていたこと、(3) 原告の父である為吉名義のガス、電気の使用料は、原告の預金口座から支払われていたこと、(4) 原告は、本件各係争年度の税額の確定申告において、原告の父為吉方との社会保険料、及び、保険契約者が父の為吉、弟の守夫にかかる損害保険について、その控除の申告をしていること、(5) 原告は、その居住する町会へ、原告の外、守夫、すゑ子を含む六名を一世帯として届出をしており、町会費も、一世帯分の一、〇〇〇円のみを支払っているに過ぎないことが認められるところ、これらの事実に原告が守夫及びすゑ子に給料を支払ったとの主張を裏付けるべき賃金台帳もないことに照らして考えると、前記原告の主張に副う原告本人尋問の結果は、到底措信することができず、他に原告の右主張を認めるに足りる的確な証拠もない。
なお、前記認定の事実からすれば、前記守夫とすゑ子は、原告と生計を一にする親族であって、原告の営む事業に従事していたことが窺われ、所得税法五七条三項所定の事業専従者控除の適用の可否が問題となるが、同法同条五項によれば、居住者の所得計算上必要経費として一定額の専従者控除が認められるためには、確定申告書に同条三項の規定の適用を受ける旨及び同項の規定により必要経費とみなされる金額に関する事項の記載がなければならない旨定められているところ、前掲甲第二ないし第四号証によれば、原告において係争各年分の確定申告書に専従者控除に関する事項を記載していないことが認められるから、原告には係争各年分における専従者控除の適用はないといわなければならない。
5 その他の損失について
原告は、原告方には、昭和五〇年から同五二年にかけて冷蔵庫の設備がなく、追加注文に備えて多い目にめん類を製造していたところ、これが翌日に売却できないため、商品全体の約二パーセントを毎日廃棄していたと主張し、原告本人尋問の結果中には、右原告の主張事実に副う趣旨の供述がある。しかし、前掲乙第四五号証、同第四七、四八号証、成立に争いのない乙第三五号証、証人黒川曻の証言、及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、当時、防腐剤である過酸化水素を使用して、製品の腐敗を防いでいたこと、また、原告は、あらかじめその得意先から一定数量の注文を受け、これに応じてめん類を製造販売していたことが認められるから、他に立証のない本件においては、原告の製造するめん類のうち約二パーセントを廃棄していたとの原告の主張事実に副う原告本人尋問の結果はたやすく信用できないものというべく、他に右原告の主張事実を認めうる証拠はない。よって右の点に関する原告の主張は失当である。
四 以上認定したところによれば、原告の本件係争各年分の総所得金額は別表(二)A第一次主張欄記載のとおりとなるから、その範囲内(ただし、審査請求に対する裁決で一部取消されたのちのもの)の所得額に基づいてなされた本件係争各年分に関する本件更正処分及び本件過少申告加算税の賦課決定処分は、その余の点について判断するまでもなく適法というべきである。
五 もっとも、原告は、売価還元率法による原告の推計所得は、別表(二)のB原告主張額欄に記載の通り、昭和五〇年は一五四万五、〇一七円、昭和五一年は一五八万二、二二二円、昭和五二年は一四五万六、九九九円であると主張している。しかしながら、
1 まず、原告の売上原価(仕入原価)は、前記の通り、原告主張の額(別表(二)のB原告主張額欄に記載の金額)ではなく、被告主張の額(別表(二)のA第一次主張額欄に記載の金額)であるというべきである。
2 次に、原告の小麦粉の仕入単価について、原告は、昭和五〇年は二、七〇〇円、同五一年は二、七〇〇円(但し、三月一日より三、〇〇〇円)、同五二年は三、〇〇〇円と主張しているが、右原告の主張事実を認めうる的確な証拠はない。却って、証人黒川曻の証言及び原告本人尋問の結果によれば、本件係争各年度の当時、原告方で製造するめん類のうち、約六割がうどんで、その余の約四割は中華そば、日本そばの類であったこと、そして、原告方で仕入れる小麦紛の銘柄のうち、うどんの原料として使用されるのは、アザラシ、花椿であって、紫グルタはそばのつなぎ粉として使用されていたことが認められるところ、前掲乙第一九号証の一、二、成立に争いのない乙第三四号証によれば、原告が仕入れていた小麦粉のうち、アザラシについては、一袋当り、昭和五〇年一月から同五一年二月までは二、一一〇円、同五一年三月から同八月までは二、五四〇円、同五一年九月から同五二年までは二、六六〇円であったこと、また、花椿については、昭和五〇年一、二月は二、〇八〇円、同五一年三月から同年八月までは二、五一〇円、同五一年九月から同五二年までは二、八五〇円であったこと、なお紫グルタは右以下の値段であったことが認められる。
3 また、原告は、うどん玉一玉の販売単価は、昭和五一年七月以降同五二年にかけては平均三四であったと主張し、原告本人尋問の結果中には、右原告の主張事実に副う趣旨の供述がある。しかし、他方、成立に争いのない乙第三八号証、同第四五号証、同第五〇ないし第五三号証、弁論の全趣旨により成立を認めうる乙第四六号証、同第四八、四九号証、並びに、弁論の全趣旨によれば、少なくとも昭和五二年の原告の販売するうどん玉一個の平均単価は、三五・三四であること(別表(四)参照)が窺われるから、前記原告の主張事実に副う原告本人の供述はたやすく信用できず、他に右原告の主張を認めうる証拠はない。
4 なお、昭和五〇年及び同五一年において、原告がその仕入れた小麦粉を加工せず、そのまま他に転売した額が原告主張の通りの額であること、原告が訴外宮田守夫、同宮田すゑ子に対し、原告主張の通りの給料を支払ったこと、原告がその製造した商品のうち約二パーセントを廃棄していたこと、等の諸事実がいずれも認められないことは、前述の通りである。
5 そうすれば、当時、原告方で製造していためん類のうち、うどんは約六割に過ぎなかった上、原告主張の売価還元率による原告の所得推計の前提である小麦紛の仕入数量、仕入単価、うどけ玉の売上単価、その他が、原告主張の通りの額であることは認め難いから、そば類を除外して、小麦粉の仕入額、うどん玉の売上単価等のみを前提とした原告主張の売価還元率による推計所得は、到底採用できないものというべきである。
六 よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行訴法第七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 後藤勇 裁判官 大沼容之 裁判官 岩倉広修)
別表(一)
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別表(二)
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別表(三)
類似同業者の原価率及び一般経費率
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別表(四)
うどん一玉当りの平均売上単価
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平均単価の計算
36円50銭×10.87%=3.97
36円00銭×53.82%=19.37
34円00銭×35.31%=12.00
計 35.34円
別表(五)
昭和50年分売上
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昭和51年分売上
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昭和52年分売上
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別表(六)
昭和50年分売上
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昭和51年分売上
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昭和52年分売上
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別表(七)
品名 紫グルタ
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別表(八)
品名 アザラシ
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別表(九)
品名 紫グルタ
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別表(十)
品名 アザラシ
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別表(十一)
品名 紫グルタ
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別表(十二)
品名 アザラシ
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